OECD主導のBEPS 2.0 Pillar Twoは、多国籍企業グループに対して国別実効税率15%を保証する新たなグローバルルールです。日本では2024年4月以降、Pillar Twoの中核ルールであるIIR(Income Inclusion Rule)が段階的に適用され、UAEもグローバル最低税率の導入意向を公式化しています。
UAE法人税は9%という低税率ゆえに進出魅力が大きい市場ですが、日本本社がPillar Two対象であれば、9%と15%の間の6ポイントのギャップが本社レベルで追加課税される可能性があります。本ガイドは、日系親会社のUAE子会社の実務担当者が押さえるべき核心ポイントを整理したものです。
1. Pillar Twoの基本構造 — IIR、UTPR、QDMTT
Pillar Twoは3つの中核ルールで構成されます。各ルールの適用時期と対象は国により異なりますが、大きな枠組みは以下の通りです。
- IIR(Income Inclusion Rule):親会社所在国が子会社の低課税所得に対して追加課税するルール。日本では2024年4月以降適用開始。
- UTPR(Undertaxed Profits Rule):IIRが適用されない場合に補完的に適用されるルール。他のグループ会社所在国で課税。
- QDMTT(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax):自国内子会社の低課税所得に対し自国がまず補完税を課すルール。UAEも導入を検討中。
核心は「UAEで9%だけ払って終わり」がもはや成立しないという点です。UAEで少なく支払った税金は、どこかで追加で徴収される可能性が非常に高いです。
2. 適用対象 — どのグループが該当するか
Pillar Twoは一般的に直近4会計年度のうち2年以上で連結売上7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループに適用されます。日本の主要大企業の多くがこの基準を満たすため、以下のような場合はUAE子会社も事実上影響圏内にあります。
- 日本本社が東証プライム上場の大企業またはグループ会社の場合
- 海外法人を多数保有する中堅グループ
- 日本ではなく第三国に持株会社を置くグローバルグループ
適用対象の判定は本社単位で行うため、UAE子会社の実務担当者は本社税務部門に適用対象の有無を事前に確認する必要があります。
3. UAE 9%とグローバル15%のギャップ
UAE子会社がPillar Two対象グループに属する場合、単純にUAEで9%だけ負担する構造ではもはや十分ではありません。本社所在国でIIRを通じて差額(約6ポイント)が追加課税されることがあり、これがグループ全体の実効税率を押し上げます。
日本本社A社グループがUAEに100%子会社を有し、UAE子会社の課税所得が1,000万ディルハムだと仮定します。UAEで90万ディルハム(9%)を納付しても、Pillar Twoにより日本本社単位で追加で約60万ディルハム相当のIIR補完税が発生する可能性があります。
このギャップを埋める方法は、事業構造そのものに依存します。フリーゾーンのQFZP資格で0%を維持する場合でも、Pillar Twoの観点からはむしろより大きな補完税リスクを生む可能性があり、単純な「低税率の追求」はもはや有効な戦略ではありません。
4. UAE子会社が準備すべき文書
Pillar Twoは単純な申告ではなく、国別報告書(GIR)とグループのマスターファイル・ローカルファイルが整合性をもって作成されている必要があります。UAE子会社レベルで準備すべき資料は以下の通りです。
- GloBE Income/Loss算出資料 — UAE会計基準損益にGloBE調整項目を反映した算出明細
- Covered Taxes資料 — UAE法人税、源泉税などグローバル最低税率の算定に含まれる税金資料
- Substance-Based Income Exclusion(SBIE) — 人件費および有形資産基準の控除項目算出資料
- 関係会社取引文書 — 移転価格マスターファイルおよびローカルファイル
- グループ組織図と持分構造 — 親会社までの全体的な持分の流れ
5. 実務点検 — 日本本社との整合性
Pillar Twoは親会社と子会社が個別に対応できるルールではありません。日本本社の税務部門が作成するGIRとUAE子会社の資料が整合性を持っている必要があり、以下の事項が事前に揃えられている必要があります。
会計年度と報告通貨
日本本社の会計年度と報告通貨を基準にUAE子会社の損益が換算されます。UAEはディルハム基準の決算ですが、GIRには本社報告通貨で換算された数値が記載されます。
移転価格政策の一貫性
UAE子会社と日本本社または他のグループ会社との取引価格が、本社レベルのマスターファイルと一致する必要があります。単価、マージン、費用配分方式が異なれば、両側で調整が発生する可能性があります。
おわりに
BEPS 2.0 Pillar Twoは単純な追加申告義務ではなく、グローバルグループの税務戦略全体を再設計させるルールです。UAE子会社の9%税率は魅力的ですが、本社がPillar Two対象であれば、これを単独で見て意思決定することはできません。
本ガイドの内容は一般的な情報であり、グループ売上規模、会計年度、本社所在国により適用方式が大きく異なります。UAE子会社単位で本社と整合性のある資料を整えるためのコンサルティングが必要な場合は、別途お問い合わせください。